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いろいろなサポートをやっています。男女共同参画センターも、まさにそういう役割を受け持つ専門的な「ワーカー」集団だと思います。なかなか大変ですが、そうしたワーカーを育て増やしていくこと、そして一般の人たちはその存在を知って支えていくということも、大事ではないかと思います。さらに、韓国はここずっと、多文化共生ということで頑張ってきた積み重ねみたいなものがあります。その一つの例として読むと面白いのが『二度の自画像』(2021・東京外国語大学出版会)という本です。外国人労働者、セックスワーカー、結婚移住者など様々な立場の人たちの物語が詰まっているのですが、作者の視線がやさしいのです。特に外国人労働者は、日本と同じように少子化で労働力が不足する韓国が、思い切ってこの人たちに働いてもらうと決めたわけですよね。その後、本当にいろいろな苦労があって、今もそれは払拭されたわけではないのですが、社会の建前としてはこの人たちを大切にして一緒に生きていかなくては未来がないんだという、そこを、文学も描いています。ただでさえ競争社会で辛い中を、こうした少数者、他者との共生のために努力してきた経験がこのような小説にも出ていて、とにかく、普通のこととして彼らの尊厳を認めるという、日常の姿勢の大事さが学べます。これは、一見、平等な社会ができていそうに思えたのに、いつの間にかヘイトスピーチが盛んになると、未解決だった差別意識がどんどん噴出してしまった日本において、本当に参考になると思っています。また、韓国のさまざまな文化を見ていると、大人としての責任感、自分の次の世代のために今できることをするという意識が強いんです。若い人でもそうです。今の日本の若い人たちも徐々にそうなっていると思うんですが、「大人とは自己責任を取れる人」ではなく、「大人でも弱くてもダメでもいいから、次世代に負の遺産を残さないために自分にできることを考える」というスタンスが大事ではないかと思います。とにかく、よく読まれています。書店に行くと詩集のコーナーが非常に充実しており、また詩集は薄くて安いので(1000円を切るぐらい)、気軽に買って友達にプレゼントしたりします。そもそも全体に言葉を「素敵に使う」というか、ちょっとしたメールでも手紙でも結構ロマンティックだったり、ユーモア感覚が優れてたりしますしね。そして、困難な歴史が長かったことも詩が盛んなことと関係があるだろうと思います。̶̶最新刊『まだまだという言葉』について教えて下さい。一言で言って大人の短編集です。渋いです。描かれているのは、鬱屈を抱えていたり、自由でいられないさまざまな境遇にいる人々ですが、特に若い人たちの苦境に胸が詰まる思いがありました。例えば、お母さんとお姉さんに裏切られ、家族の借金を押しつけられてたった一人でソ0代の非正規労働者のウルで生きる2独白など、精緻にリアルに描かれているからこそ、たまらなくなってしまいました。つまり「大人の短編集」というのは、そのことに対する大人の責任感を揺さぶるような物語でもあるということです。̶̶斎藤さんは、詩集も出版されています。韓国では詩がよく読まれるそうですね。最後に置かれた「アジの味」という短編が、ふとした体験から「人間にとって言葉とは何か」を考える一組の男女を描いていて余韻がありました。切なくなる、苦しくなる、怒りを覚える社会の一コマ一コマを集めていますが、それに耐えて前進するためには胸の中に小さな明かりが一つあればよい、そんな気持ちになりました。̶̶フォーラム通信の読者へ、メッセージをお願いします。韓国文学は日本にいちばん近い世界文学です。近いからこその親近感と、近いのにこんなに違うんだという発見の両方があると思います。両方から接近してみるつもりで触れていただくと、同時代の息吹を感じる貴重な読書になると思いますよ。斎藤真理子さいとうまりこ翻訳家。大学在学中に韓国朝鮮語を学び始める。訳書に、パク・ミンギュ『カステラ』(2014・クレイン)、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(2016・河出書房新社)、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(2018・亜紀書房)、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019・筑摩書房)、など多数。最新刊は『まだまだという言葉』(2021・河出書房新社)。photo:©YurikoOchiai*2「フォーラムブックフェア今読みたいK文学!」のために、斎藤真理子さんが選書し、書評コメントもいただいたブックリストは、ホームページから読めます。https://www.women.city.yokohama.jp/y/library/theme/7フォーラム通信2022冬春号特集2私、を生きるための韓国文学