「フォーラム通信」2022年冬春号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2022年冬春号の特集は、「悩みに効く!私を守る言葉の護身術」「私、を生きるための韓国文学」。


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フォーラム通信2022冬春号6特集2私、を生きるための韓国文学翻訳刊行したものです。*1マンスプレイニングを描いた表題作をはじめ、SFやサスペンスまで入っていて、バラエティ豊かな短編集です。「ヤング・フェミニスト」といわれる女性作家たちの活躍も目覚ましいものがあります。デートDVをテーマにした『別の人』(2021・エトセトラブックス)や、私が『完全版韓国・フェミニズム・日本』(2019・河出書房新社)に訳出したパク・ミンジョンの「モルグ・ジオラマ」などがそれに当たります。̶̶今、日本で韓国文学がたくさん翻訳され、出版されているのはなぜでしょうか?一言でいえば「面白いから」だと思うんですが、それと関連して、エンパワーメント効果があるからというのが大きいと思います。チョン・セランやチェ・ウニョンなど、読むと明日からまた生きていく元気が出る、支えてもらっているような温かい気持ちになる、といった感想を持たれる方が多いと思います。韓国も本当に大変なことが多いんですけど(そもそもが厳しい格差社会で競争も激しいですし)、奮闘する人々の姿が丁寧に書き込まれている、そして個人と社会の関係がリアリティをもって描かれているのが良いんだと思います。個人だけでもなく社会だけでもなく、その接点、座標軸の上にある人間を描いていますが、それを自分に置き換えたときに生きていくための元気が生まれるのかもしれません。それと同時に、特に女性たちを中心として多くの人が韓国の文化コンテンツを幅広く受け入れ、親近感を持っていますが、そうした下地も関係していると思います。ドラマ・映画、音楽ときて最後が文学ですね。文学は自分から能動的に脳を動かして、いわば自分から「取りに行く」行為をしないと摂取できませんから、そのため最後になったのだと思います。その分、受け手の中に長く残るかもしれません。̶̶翻訳者として感じる韓国朝鮮語の特徴や魅力を教えて下さい。韓国朝鮮語は、ハングルの仕組みを覚えて一応読めるようになるまでの時間が非常に短いです。初歩の習得は極めて短時間で済み、達成感が得られると思います。文法も似ており、ぐんぐん読めるようになります。ただ、似ていて違うからこそ中級以降はちょっと厳しくなってくるかもしれません。そこが面白いのでしょうね、似ていることと、違うことが。̶̶驚異的ロングセラー『こびとが打ち上げた小さなボール』について、「なぜ韓国ではこの本が熱烈に読まれつづけているのか。それを考えることが、私たちの社会を考える糸口にもなりそうです」と*2ブックリストにお寄せいただきましたが、どのような作品ですか?1978年、韓国が軍事独裁政権下にあったころ、厳しい検閲をかいくぐって生まれた奇跡のような小説といってよいかと思います。社会の底辺で生きているある一家をめぐる物語で、体に障害をもつ「こびと」と呼ばれる男性とその妻、3人の子供たちが、荒々しい経済成長と都市開発の中で、尊厳を蹴散らされながら必死に生きていく、しかしそれは報われず、主人公たちは傷つき死んでいきます。この物語を、当事者、そして当事者を見守る第三者、また当事者が「敵」と思わざるをえない存在(この場合は大企業の経営者一族)、それぞれの声を用いて重層的に描いています。そこから、我々の生きる世界の構造、ひょっとしたらメビウスの帯のようになっている構造を、詩的な驚きさえ湛えて描ききっているので、単なる告発の文学にとどまりません。作家とは声なき人のために書くものであるという、韓国文学において重要な姿勢を代表するような作品です。同時にみずみずしい若者たちの群像を描いた青春文学の特徴も備えているので、いまだに読み継がれるのでしょう。そして、社会体制が変わっても「こびと」のような人々は常に生まれてくる、現在では非正規雇用の若者たちがまさに「こびと」のような存在なわけです。さまざまな面を持つプリズムのような小説で、読者の内面を多面的に照らし出す作品です。韓国の知り合いと話しているとき、「韓国もさまざまなひどい差別が存在するし現実は苦しい、でも、人々のために働くワーカーがたくさんいる。その点が日本と違うのではないか」という話をしてくれたんです。確かに韓国では、フェミニズム一つとっても女性団体の力が強くて、さまざまなセミナーを開いていたり、いろんなプログラムがあって教育機能も強く果たしているし、困りごとについても強力にサポートしていると思います。宗教団体などでも*1男性が女性に対して、相手が無知だと決めつけ、見下した態度で説明をすることやその態度。


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