「フォーラム通信」2023年冬春号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2023年冬春号の特集は、「私、の痛み~痛みのジェンダー・ギャップ~」「家庭科教師で野球部監督で」。連載は「地球で行きてる私たち」。


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特集2家庭科教師で野球部監督で神奈川県立横浜清陵高等学校野原慎太郎さんインタビュー家庭科教員で野球部の監督でもある野原慎太郎さんは、高校時代は甲子園を目指す高校球児で、「家庭科イコールお母さん、主婦」という考えを持っていたそう。どのような経緯で家庭科教師となったのか、また、部活動の「女性マネージャー」という役割についての思いなど、お話を聞きました。野原慎太郎のはらしんたろう神奈川県立横浜清陵高等学校(横浜市南区)教諭。野球部監督。高校2年生を担任。1982年大阪生まれ。中学校から神奈川へ。高校野球強豪校から横浜国立大学へ進学後、同大大学院へ。専攻は家庭科教育学と家族社会学。教員生活は16年目。横浜清陵高等学校野球部の甲子園出場を目標に、日々、奮闘中。家族は妻、中1と小3のお子さん。­­­どんな学生時代でしたか野球は小学校2年生から始めました。中学校の部活でも続けて、高校は東海大相模の野球部へ。中3まで夢はプロ野球選手でしたが、高1で現実を知りました(笑)。高校時代は寮生活でめちゃくちゃ厳しかったです。当時は、疑ってもいませんでしたが、「男は耐える」、「男は強くあるべき」というのが美徳だと思っていて。家庭科は、ちょうど男女共修になった時代だったので、中学でも授業を受けました。ただその時は、一つの教科という印象しかなかったです。まさかこんな仕事をするなんて思っていませんでした。­­­なぜ家庭科の先生に?小学校教諭を目指し、大学受験を経て、横浜国立大学の教育学部に入りました。1年生の時に全教科を学び、2年生から専攻を選ぶのですが、その中で家庭科が一番面白いと感じました。食品添加物の授業で、ある団体のパンフレットには「安全です」と書いてある一方で、別の団体などは「危険。摂り過ぎてはいけない」と説明している。両方の意見が提示され、最終的にはあなたはどう添加物とつきあっていきますかという投げかけで終わったんです。それまでは受験勉強のように答えは一つしかないという思考パターンになっていたので、すごく新鮮でした。世の中には答えは無く、社会の矛盾を実感できる教科だと思いました。ジェンダー学の先生の授業では、「家庭科という教科自体が※1性別役割分業を再生産してきた科目」と自分の教科を批判的にとらえて、学生たちに、「あなたたちはこれからどんな家庭科を作っていったらいいと思いますか?」と問われました。家庭科って、すっきりしない授業が多くて、終わった後もずっと引っかかるんですよね。そういうのがすごく知的に面白いなと思いました。今となっては笑い話なのですが、ゼミの先生が「あなた、こんなの書いてたわよ」と当時自分が書いたもの見せてくれたことがあります。大学1年時の授業で「家庭科のイメージとは?」という問いに「お母さんか主婦」と答えていて、「家族とは?」には、「血のつながりのある集団」と答えていました。僕自体がそういう※2ジェンダーバイアスや固定的な家族観の塊だったんですよね。それが今ではこんなになってるんですから、学ぶってすごいなと。専攻を選ぶ際に、家庭科が第一希望だった人は僕を含め、2人だけ。人気がないんです。その後、第二、第三希望の人が落ちてきて、最終的には9人になりましたけど、男性は僕1人です。みんな進学校のトップ校から入ってくるような人ばかりで、家庭科を軽視していますよね。以前、家庭科の未履修問題がありましたが、要は、「やらなくていい教科」という扱いなんですよね。部活のチームメイトに僕が家庭科を専攻すると伝えると「ふざけてるのか?」とか、「ウケ狙いじゃないのか?」とも言われました。でも、人がやっていないことをやるんだという気持ちでいたので、特にブレることはなかったです。両親からの反対もなかったです。小5フォーラム通信2023冬春号


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