「フォーラム通信」2020年春号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2020年春号の特集は、「私、の好きな人」。


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私、の好きな人メアリー・アグネス・チェイスすこし前に『世界を変えた50人の女性科学者たち』という本を翻訳する機会に恵まれました。タイトルのとおり、古代から現代まで、科学の分野ですぐれた業績をのこした女性0人を、かわいらしく洒落たイたち5ラストと文章で紹介した児童書です。歴史上の偉人として知られている女性の科学者というと、あなたはだれを思い浮かべますか?ラジウムとポロニウムを発見したマリー・キュリー、コンピュータ・プログラミングの先駆者とされているエイダ・ラブレスあたりでしょうか。でたとえばアイは男性の科学者は?ンシュタイン、ニュートン、ガリレイ、エジソン、湯川秀樹などなど、女性よりもたくさんの名前が挙げられるのではないでしょうか。どうしてこのような性別による差が生じているのかといえば、これまでの人類の歴史において、女性が科学を学び、職業として選択することがなかなか許されない時代が長いこと続いてきたからに他なりません。「男は仕事、女は家庭」「男は理系、女は文系」「男は論理的、女は感情私、の好きな人的」……そういった社会に深く浸透した固定観念、およびそれにもとづいて設計された制度によって、自らの知的好奇心を育み才能を伸ばすことが叶わなかった女性たちが、世界中にたくさんいたはずなのです。この本で紹介されているのは、そんな逆境にあっても科学研究の道に進み、成功を収めることができた、飛び抜けて優秀かつ幸運な女性たちです。わくわくする大発見や大冒険の物語がぎっしり詰まっていて、「どうしてこんなにすごい人のことをこれまで知らなかったんだろう」と、読んでいて何度も驚かされました。それはもちろん自分の不勉強のせいではあるのだけれど、ずっと女性よりも男性を優先して持ち上げてきたこの社会、特にメディアや教育に責任があるのも確かです。貧しい中、学び続けた人生さて、私がこの本をきっかけに知ることになった刮目すべき女性たちのなかで、とりわけ大きな尊敬の念を抱かずにはいられない人物が、二〇世紀の最初の何十年かにアメリカ合衆国で活躍した、メアリー・アグネス・チェイスという植物学者です。彼女が専門としていたのは草本学。樹木のようには成長しない小さな草が地球の環境にとっていかに重要かに気づいて、その特質を研究しました。世界を旅して膨大な種類の草を収集し、分類したのです。その成果は家畜に与える飼料の品質検査などに活用されてきました。また、彼女は女性参政権運動の闘士でもありました。全米黒人地位向上協会の熱心な会員でもあったそうです。彼女が生きた時代に高等教育を受けることが許され、名前が後世に残るような仕事を成し遂げることができた女性というと、やはりどうしても貴族や裕福な家に生まれた人物が目立ちますし、百年経った現在でも教育の機会均等は依然として実現されているとは言えません。それを思うと、貧しい暮らしのなかで自分に『世界を変えた50人の女性科学者たち』(2018・創元社/レイチェル・イグノトフスキー/野中モモ訳)XY染色体を発見したのも、世界で初めて首長竜の完全な頭蓋骨を発掘したのも、女性科学者でした。科学・技術・工学・数学(STEM)の分野で素晴らしい業績を残しながら、歴史の陰に隠れてきた女性科学者たちにスポットをあてた、カラフルで楽しい一冊。子どもから大人まで、元気をもらえます。3フォーラム通信2020春号


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